版画 染織 VD DIALOGUE 001
- 版画山口 はるき
- 染織林 若菜
- VD稲岡 莉々
染織専攻への質問
作品に使う素材を選ぶときに、どんなことを考えて手に取っていますか?(山口)
林 染織専攻って他の専攻と比べて支持体の選択肢が多いと思ってて。麻や絹、綿みたいな地の布もそうだけど、元から染まってる布に加工を加えることもできるし、選択肢が多い分、素材を選んだ時にも教授に「なんでこれを選んだの?」って説明を求められることも結構ある。例えば、私はマットな素材が好きで毛糸や糸を使うことが多いんだけど、そういう時もつやつやした光沢のある糸をより合わせて作った毛糸と、カサカサした糸をよった毛糸だと、本当に糸一本だけでも光の反射具合が違うから、同じ色でも光の下に出すと違う色に見えたりする。だから、自然光の下でどんな風に見えるかっていうのは結構確認するかな。
山口 糸とかも自分で染めてる人もいるよね?
林 私は結構彩度高いものが好きだから既成の毛糸を使うことが多いけど、繊細な色を作りたい人は、自分で染料を調合して染める人もいるね。
山口 結構なんでもできるんやね!
林 工芸科ってけっこ2伝統工芸的なイメージが強いと思うけど、わりかしなんでもできるんだなって、入って初めて気づいたな(笑)
稲岡 確かに展示とか観に行ったら、染織ってこんなこともできるんだって、色々発見がある!
作品の色使いがすごく綺麗なイメージが勝手にあるんですが、配色は制作のどの段階で決めてますか?気に入ってる色の組み合わせがあったら教えてください!(稲岡)
林 構想段階ではデジタルツール、パステルやアクリルも使うね。その時に気をつけているのは、例えば青だと水っぽい、赤だと情熱的みたいな色が持つイメージ自体に引っ張られないことかな。画面構成を考える時に、色を使うと色固有のイメージの面白さに頼っちゃうから、構図とか形を考えるときはモノクロで考えるようにしてます。配色は大体三色以内でシンプルにまとめるのが好きで、地の白+補色はよく使う配色かな。
山口 補色で重ねると一番色の違いがパキッと出るよね。
林 VDと版画でもちょっとやると思うんだけど、捺染とかシルクスクリーンで違う色が混ざった時の版の重なりがすごく面白いんよね。特に、補色同士が版ズレで重なった時みたいな、ちょっと暗めな色の感じがすごい趣味に刺さる(笑)補色って圧が強いから扱いづらいかなと思うけど、実は調和する関係なんじゃないかな。
稲岡 でもやっぱちょっと使うのは勇気いるよね…(笑)使いこなせてるの本当にすごいと思う!
版画専攻への質問
普段どういう風に作品のアイデアが湧いてくるのか知りたいです!決まってここに行ったらでてくる!とか普段から気を配って探しているのか気になります!(稲岡)
山口 私は普段からクロッキー帳にドローイングを書くのを習慣にしてる。作品を作るため、というよりはとにかく手を動かすのが目的なんやけど。描きっぱなしじゃなくて、描いたものは時間を置いて見返すことも意識してる。ドローイングから気に入った形があったら付箋して、後で自分がどういう形が好きなのかわかるようにしておく。なので、ここからピックアップして作品にすることが多いですね。
林 こういうの見るのめっちゃ好き!その人の脳みそ見ている感じになる(笑)
稲岡 これって1日1ページ描いてるんですか?
山口 それは日によって全然バラバラで、多い日は7、8ページ描くときもあるけど、少なくて1個とか。特にコロナで大学がなかったときとかは暇だからひたすら描いてたって感じ。
なるほど、普段からアウトプットを習慣にされてるんですね。作品のアイディアがどこで思いつくのでしょうか?
山口 寝る前の布団かお風呂かな。寝る直前に思いつくから、最後の力を振り絞ってスマホにメモして力尽きる笑 自分でも変だと思うけど、多分水とか布団とか、自力で立ってない、体重を預けて不安定な感覚が、絵になる要素になっているのかもしれない。
林 確かに作品も、流動的な感じはあるよね。
稲岡 ちょっと蛹っぽい?出てきそうで出てこないみたいな感じもする……アイディアの源泉、林さんの場合も聞きたい!
林 うーん、ありきたりだけど、歩いているときとか、それこそ寝るときとか。あとは、映画とか、漫画で気持ちが強く動いたときに「自分も作りてぇ!」ってなるかな(笑)あとは、水とか炎とか不定形なものを見ているときも、なんか心が動く感覚がある。今はSNSとか受動的なインプットが圧倒的に多いから、それこそ何も見ない時間を作ったり、山口さんみたいに強引にでもアウトプットする時間を作ったりするのは良いな。
山口 確かにコロナの時とか、何にもない日こそ描くことは意識してたかも。全部手に任せて目をつぶって描いたり、時間を決めて描いたり。とりあえずペンとスケッチブックさえあれば、芸大生やし何か生まれるやろうと(笑)
名言!
いわゆる最新技術の印刷と、版画の違いを色々教えて欲しいです。それをふまえて、ずばり版画の魅力とはなんでしょうか?(林)
山口 回答頑張って考えました、良かったら聞いてください(笑)この質問のイメージは、機械任せか手作業かってことだと思うんだけど、そこを分ける一番わかりやすいポイントはエディションナンバー(作者を証明するために作品に振る番号)だと私は思ってて、それを入れるものが「版画」、入れないものは「出版物」だと考えています。ややこしいんやけど、最新技術の印刷技術も版画の一部なんよ。そして、最新の印刷技術のジークレー(版がいらないプリント)とかリソグラフ(事務用のシルクスクリーン印刷機)とかにはエディションナンバーを付けるから、最新技術の印刷技術でも「版画」って言える。だから、違いというよりはそもそも最新の印刷も全部版画の一部なんよね。
林 確かに作品の下に書いてある数字、一体なんだろうってずっと思ってた。そして、すごいこと知ってしまった……作品展で版画観る目変わりそう!
山口 あともう一つ言っておきたいのが、京芸の版画専攻ではみんなオリジナルの作品を作る「創作版画」をやっていて、誰かの絵を刷る専門の人はいないんよ。
林 言われてみれば…浮世絵の刷師とかも分業制だったよね。昔は職人技、みたいなイメージだったのかな。
山口 そんなイメージ!浮世絵は1900年前後まで続いていたんだけど、京芸では1910年〜1914年に登場し始めた(と言われている)創作版画を学ぶ。だから、意外とここ100年くらいの新しいジャンルなんよね。これを踏まえた上で、私は版画の魅力は、作品と人との距離が一定以上に保たれるところだと思ってる。例えばドローイングだったら紙にペンで描けば作品になるけど、そこに版を入れることで、時間と作業量がどうしても必要になってくる。その工程を踏むことで、最初に自分が描いていた絵から遠ざかっていくんよ。で、最終的に刷り上がったものは、どんどん間接的なものになっていく。それがすごくいいなって私は思ってて。自分の姿って肉眼で捉えられないけど、版画作品は肉眼で自分を見ているみたいな感覚がして、それが版画の特徴で、魅力なのかなって思ってる。
VD専攻への質問
VDに入ってからの「くせ」ってありますか?(山口)
稲岡 癖か……私は文字を作るのが好きだから、本屋さんとかに行くとタイトルロゴは気になって見るかも。あと、私は古本屋がすごい好きで、古本屋によくある色、例えば黄ばんだ色と朱色みたいな、レトロな色合いに惹かれる。京阪の色合いとかかわいくて好きです!
林 私もちょっと似てるかもしれん。染織専攻に入って、服の縫製とか素材は見ることが多くなったかも。
稲岡 専攻に入って、一回自分でやってみると見方変わるよね。
シンプルかつ個人によって解釈は様々だと思うのですが、デザインとファインアートの境界はなんだと思いますか?(林)
林 最後に激重パンチ(笑)みんなの考えを聞いてみたい!
山口 私は完全に受け売りなんだけど、私はデザインは良いものを作る、アートは良いものも悪いものも許されるっていう話がしっくりきたかな。それ聞いて、私はデザイン無理やと思った(笑)
稲岡 「良いもの」の定義が難しいけど、その人にとっては役立つものってニュアンスなのかな?もちろんアートが役に立たないわけじゃないけど、デザインの方が目に見えてわかりやすいっていうのはあるかもね。
林 自分のためだけに作ったものを赤の他人が「いいね」とか「欲しい」って言ってくれるのって、改めてすごいことだなって最近思う。アートというか、自分のエゴの塊みたいな作品が、人のために役立つ可能性を初めて知った。
山口 鑑賞者は作り手とは全く違う視点で観てくれるからね。意外やなって思ったのが、デザイン科は商業と直で結びついてるものかと思ったけど、そういうわけではない?
稲岡 そういう授業もあったけど、あんまり自分の中にはビジネスと結びついてる感覚はないかなぁ。もちろん働き始めたら絶対考えないといけないんだけど。大学にいるときくらいは、自分が良いなって思えるものを作れる4年間だったら楽しいよなって思う!
ありがとうございました。工芸、美術、デザインのそれぞれの視点からお話しいただきました。全員魅力的な作品を作られているので、ぜひ個別インタビューも併せてご覧ください!
- インタビュアー山田 歩実
- カメラマン駒井 志帆
- イラスト石塚 紗詠