2021年度 京都市立芸術大学 作品展 / 21-21 KCUA Annual Exhibition KYOTO CITY UNIVERSITY OF ARTS ANNUAL EXHIBITION 2021

学生インタビュー

山口 はるき Yamaguchi Haruki 版画専攻

1.自己紹介

まずは自己紹介と、自身の制作について教えてください。

美術科版画専攻の山口はるきです。版画専攻の中ではシルクスクリーンと木版と銅版、石版(リトグラフ)が学べるのですが、私はその中でリトグラフを学んでいます。

版画専攻に進まれたきっかけはなんだったのでしょうか。

私はもともとずっと油画専攻に進もうと思ってて、1回生の後期も油画基礎を履修していたんです。でも、2回生の前期にちょっと他の専攻を見てみようと、油画に戻るつもりで版画基礎に来たんですよ。その時は銅版とリトグラフをやったんだけど、そもそも版画もやったことがなくて、全くの未知の世界でしたね、版画は凸を作るものだと思ってたら、銅版は凹版って言って彫ることで「ネガ」を作るし、リトグラフに至っては、そもそも凹凸をつけない平版っていう版画だし。基礎の間にその仕組みを理解することはできなかったし、半年かけても上手く刷れなかった。でも、版画の絵を刷る工程とか、今まで全く知らなかった作業や言葉にすごくワクワクして、もっと知りたい!っていう好奇心で版画に進みました。

版画と油画を学ばれてきた中で、どこに一番違いを感じますか?

やっぱり道具の量が全然違いますね。後は動作が多いかな。運動に近いかもしれない(笑) 石版は大きいやつ5、6kgはありますしね。道具や機械に一つ一つに重量があって、扱いづらいけど愛おしいです。

2.制作について

山口さんはどんな制作をされているのでしょうか?

普段は毎日の習慣にしているドローイングから、好きな形を抜き出して再構築して、版画や立体を作っています。抽象ではあるんですけど、平面的な線、というよりは立体に起こせそうな奥行きがあるものをよく描いています。モニョモニョした感触、うまく言い表せないオノマトペみたいなものが、伝わるような作品を作りたいと思っています。

モニョモニョ……確かに形容しがたいというか、見る人によって印象が変わりそう。

作品を観た人が作者の意図を解釈しようとしてくれることもあるんだけど、実は作ってる側はそんなに何も考えてない、むしろ考えないようにしてて。頭をどこまでクリアにできるか、どこまで言葉に縛られないで作れるかを意識しています。温度や柔らかさ、硬さなどの感覚的なものを、どこまで視覚的に表現できるかに力を入れて制作している感じです。私の作品に正解は無いので、外部で展示をした時に、作品を観た人に「これはスプーンみたいだね」とか、もっと概念的に「これは音楽のリズムみたいだね」とか色々な感想をもらえるのが楽しいですね。そういう意味ではこの立体作品も版画も、作る側、鑑賞者の距離感は一緒かもしれない。後は、立体を作るときの条件で、気に入る形ができるまでいじり続けるっていうのと、道具を使わないっていうのを決めてて。毛糸にボンドをつける時はヘラを使うけど、そのヘラもレシートをちぎって折ったほぼゴミ?みたいなものを使う(笑) とにかく成形するときは道具を使わず、手の圧だけで作るっていうのを意識してます。

先ほど仰ってた道具をたくさん使う版画とは真逆のスタイルなんですね。

あ、バレちゃった(笑) 実は私、まだ版画に慣れなかったときにあまりに道具が多すぎて「なんでこんな遠回しに作業しなあかんねん!」って思ってたんですよ。元々油画を志望していたこともあって、絵の具だったらすぐできるのに!って。なので、実はこの子たちはその時のむしゃくしゃから生まれた副産物なんですね。
コロナ前から作ってたんですが、コロナで家にいる時に暇で何かしたいなって思って、版画は家ではできないし、こんな感じのものを作り続けていました。コロナで無限に時間があったからできたことですね。

そうだったんですね。山口さんの中で、版画と立体作品にどのように関わり合っているのでしょうか?

そうですね。私は感覚、触覚、オノマトペみたいな曖昧な言葉を表現したいなと思っているので、普段ドローイングしている、立体的にも見えるけど線を辿っていくと立体として絶対成立しないような形が、オノマトペとかうまく言葉で表現できない焦れったさに似ているなと感じて、それを立体でも平面作品でも表現したいと思ってますね。立体は粘土に毛糸を巻いて作っているのですが、それが人形に服を着せているみたいな、包んでいるみたいな感覚があって、その行為自体を絵にしているのかなと思っています。でも、このドローイング(下画像)ではちょっと違うこともしています。これは最初に立体があって、光を立体に当てて写真に撮って、その画像を見ながら描いたものなんですね。それこそちょっと版画っぽいんだけど、このドローイングでは自分で作った形に、版を挟むみたいな感じで影を入れてドローイングするっていう再構成をしました。版画と立体の間は結構自由に行ったり来たりしていますね。

山口さんの思う、版画の面白さを教えていただきたいです。

そうですね。一つは経験がはっきりと出てくるところですかね。先生が作る版はすごく綺麗で、刷るスピードも全然違います。先生や自分より版と向き合ってきた時間が長い人の作業を見ていると、版画が職人の仕事であったことを感じさせられます。でも、それを大学で経験できるのがすごくいいなと思いますね。あ、そう言うと難しい感じがするけど、私にとってはやりたいことをアルミ板の上でなんでもできちゃうリトグラフってすごく都合が良いんです。リトグラフって、版の作り方がアルミ板に油性の画材であればなんでも良くて、それを使って描くことで、版画になる作品だから意外と自由度が高いんですね。技法次第ではザ・版画みたいなこともできるし、実は水彩っぽい表現もできる。その自由度の高さと、ある程度版に委ねることで刷り上がったときに間接的な表現になるところが面白いです。

3.卒制について

卒制はどのように展示されるのですか?

京芸のアトリエ棟で、個展形式で展示します。卒制では立体たちは展示せず、版画のみを展示する予定です。

版画作品のみなんですね。この立体たちに愛着が湧いてしまったので、ちょっと寂しいです……

ありがとうございます(笑) この子達はまた別の機会で展示しようと思って、自分の中で区切りをつけました。この立体作品は版画に慣れない時にむしゃくしゃして生まれたものなので、最終は立体なしで平面の表現に挑戦しようと。やっぱり、リトグラフは大学でしかできないから、最後は版画で観せたいと思っています。

お話ありがとうございます。版画の自由度と幅の広さがまず意外だったのと、山口さんの制作テーマに版画と立体がどう関わっているのか非常に興味深く拝聴しました。卒制は大学で展示されるということで、非常に楽しみにしております!




インタビュアー:山田歩実
カメラマン:駒井志帆


前のページに戻る